東京高等裁判所 昭和37年(う)1254号 判決 1962年10月03日
被告人 塩野与志勝 外一名
主文
本件各控訴を棄却する。
被告人等両名に対し当審における未決勾日数中四十日づつを原判決が言い渡した各懲役二年の刑にそれぞれ算入する。
理由
論旨第一点について
記録及び原判決によれば、昭和三十七年三月二十七日の原審第四回公判期日において、検察官から同月八日付訴因追加申立書に基き、当初起訴にかかるA及びBに対する各強姦の訴因に猥褻誘拐の訴因をそれぞれ予備的に追加する旨の申立があり、原裁判所がこれを許可したこと並びに原判決が本位的訴因である強姦の事実を認定し予備的訴因である猥褻誘拐の事実につき何も判断を示していないことは所論のとおりである。所論はこれに対し、強姦と猥褻誘拐とは構成要件を全然異にしており公訴事実の同一性がないのであるから、右猥褻誘拐の訴因にかかる事実は本来併合罪として追起訴すべきものであり、本件においてはただこれを訴因追加の便法によつたにすぎないものといわなければならず、従つて判決において猥褻誘拐の訴因についても判断をなすべきであるのにかかわらず、これを示していない原判決には審判の請求を受けた事件につき判決をしない違法があると主張するのである。
ところで、公訴事実の同一性は基本的事実関係の同一性によつてその有無を判断すべきであり、基本的事実関係の同一性はそれぞれの具体的場合につき個別的に判断すべきものである。本件起訴状及び前記訴因追加申立書により各本位的訴因にかかる強姦の事実と予備的訴因にかかる猥褻誘拐の事実とを対比してみると、それぞれ日時、場所、被害者を同じくし、いずれも第三者が被害者の性行為の現場の写真をとつたから原版を取り戻してやるとの趣旨の虚構の事実を用いたというのであつて、行為の内容、罪質において密接な関係を有し、一はこれにより被害者を脅迫して反抗を抑圧した上原判示旅館に連れ込み強いて姦淫したとの事実であるのに対し、他はこれにより被害者を欺罔し猥褻の目的で右旅館に連れ込み誘拐したとの事実である点が異るに過ぎず、一方が認められれば他方は認められぬ関係にあり、その基本的事実関係はそれぞれ同一であると認めるのが相当である。従つて右各本位的訴因にかかる強姦の事実と予備的訴因にかかる猥褻誘拐の事実とは同一性があるというべきであり、これがないことを前提とする論旨は採用の限りでない。
(その余の判決理由は省略する)
(裁判官 長谷川成二 白河六郎 関重夫)